料理の品格とは

食べ歩き ,

ソースに意思があった。
何者にも邪魔にされず、自然のままに育ったジビーフへの慈愛と敬意を表そうとする、穏やかな意志がある。
フィレ肉を噛むと、エキスが流れ出る。
たくましい血脈を感じるが、雑味なく澄み渡った味わいもあり、それは噛むほどに膨らみ、最後の小片となって喉に落ちゆくまで消えない。
マデラソースは、うま味をたっぷりと含んでいるが、ジビーフの滋味を超えようとはしない知覚があって、さらりと肉に寄り添う。
うま味も、スープに近い濃度も絶妙に計算され尽くしていながら、さりげない。
それは、コンディマン的役割でも、共に高みに登ろうとする強引でもなく、共生しようとする優しさに満ちていた。
だから美しい。
だからエロい。
料理の品格とは、こういうことを言うのだろう。
銀座「ラフィナージュ」にて。