それは“手の味”である。
僕が行く時は、必ずオンマがビビンバップを用意しておいてくれる。
そのためにご飯は硬めの炊き立てであり、ナムル類だけでなく、新鮮な芹とセロリが、必ず用意される。
炒めて味付けた挽肉と葉っぱ類を合わせ、ご飯に投入し、混ぜる、混ぜる。
これでもかというほどに念入りに、満遍なく混ぜて均一化したら、薬念とキムチの汁を入れてさらに混ぜる。
こうしてオンマ特製のビビンバップが出来上がる。
口に運べば、すべてが馴染んで、地平線の彼方まで丸い。
韓国人でもないのに、遠い昔に食べた、懐かしさが浮かんでくる。
それまでにどんなに食べていても、お腹いっぱいであろうとも、するすると入り、おかわりしてしまう優しさがある。
「おいしく美味しく食べて、元気になっていただこう」。
そこには、80歳を優に過ぎたオンマの純粋な心根だけが詰まっている。
「どんなに辛い時でも、美味しいものを食べた時には、人は笑う」という母の言葉を胸に、厳しく辛い人生を生き抜いてきたオンマの博愛が、彼女の手から滲み出て、ゆっくりと体に染み込んでいく。
月島「韓灯」にて。









