友達が集まってきた。
すずが吟味して集めてくれた食材を、じっくりじっくり焼いてやる。
イカは屋台風に醤油焼きにし、 えびは中華風でにんにくきかせて焼く。
肉もたっぷりあるぞ。
シャンパンもワインも浴びるほどあるぞ。
最後にチャーハンを作ったようだが、 記憶がない。
凛子が笑った記憶もない。
朝目覚めると、
もう隣に凛子はいなかった。
二日酔いの頭を抱えながら、高野槙の風呂に入った。
槙は、柔らかいが、香りよく、長持ちをして、水気や湯気にも強く、風呂桶としては最上である。
香りが、鼻に抜け、体の芯に、なんともいい心地が訪れる。
台所から音が聞こえてきた。
凛子が朝食を作っている。
まな板をたたく音がリズミカルに響く。
体を沈め、こぼれる湯の音に、包丁の音を共鳴させる。
火照った体で台所を覗くと、目の前に一杯の水が差し出された。
バカラのグラスに注がれたそれを、音を立てて飲み干す。
喉の動きを静かに伺う、凛子の気配があった。
僕のおかずは、鮭に海苔、味噌汁は、三つ葉に大根。
彼女は大好物のめざしにほうれん草のおひたし、味噌汁は、油揚げだった。
渋い好みだなあ。
めざしの頭を、きれいな前歯でがりがりと噛んでいる。
すかさずご飯を口に運んだ。
目を細めて、ゆっくりと租借している。
その意識の中に僕はいない。
所作が美しい。
僕はただただ見つめる
あ。微笑んだか?
いや違うか。
そのとき声がした。
「マッキー、ご飯おかわりする?」
我に返る。
奈良の友達、イケちゃんである。
僕の知る限り、史上最強、無敵の酔っ払い。
大阪では、「新地の虎」と恐れられている。
「うん。おかわりもらおうか」。
僕の潜在意識が彼の存在を消し、「凛子」という女性が代わりに居座ったのはいつからだろうか。
凛子の空想は、会うたびに暴走している。
酒を飲み、酔う楽しみと恐怖を、彼の中に見たからだろうか。
深夜の暴人と昼間のやさしく繊細なギャップに、人間を投影したからだろうか。
「凛子、ほら、もう一度席についてめざしを食べて、いつものように微笑んで」。
二杯目をよそる彼の姿を見ながら、そっとつぶやいた。