凛子再び

日記 ,

僕ら家族が、「五位んち」と呼んで愛してやまない別荘は、田園の中でぽつねんと佇んでいる。

今日も秋の穏やかな日差しの中で、気持ちよさそうにうたた寝をしていた。

大伴金村の末裔、五位殿某に由来するともいわれる五位堂は、奈良県北西部の香芝市東部に位置する閑静な街である。 
この地に別荘を構えたのは、祖父の代からであった。 
祖父は友人から譲り受けたという。 
その友人は、なんらかの理由で妾と別れることとなり、その妾宅を表立って処分できずにいたところを、祖父が受けたという話だった。 
質素ながら、随所に贅を凝らした建材を使った切妻造りの二階家で、上質な趣の中、凛とした正当な清さに貫かれている。 
日がな一日廊下に座って中庭を眺めていると、昭和のよき日が蘇る。  
家政婦のすずが、入念に植木屋に指示したのだろう、隅々まで庭の手入れが行き届いている。 
荷物を降ろすと、離れのガレージに向かった。 
そこには、いつ走り出してもいいように整備された、4台の愛馬が待っている。 
300SL 
フェラーリ412 
ポルシェ959 
76’ベントレーT1 
76‘ロールスロイス シャドー 
ブブブ、ブオーン  
300SLのイグニッションキーは一回で、眠りから覚め、唸りを上げる。 
「まだ友達が来るまで時間があるから、法隆寺まで行こう」。 
さっきから愛車たちを撫でまわす僕を、黙って見ていた凛子が、無表情でうなづいた。

以下次号