山映の黒豚なんこつ時雨煮
冷たいままか、温めるか。ううむ。悩むなあ。
冷たいままだと肉を噛みしめる喜びがあって、しぐれ味の中から徐々に肉の味がにじみ出てくる。
その時間がいい。
温めると、舌の上で肉がほろりと崩れ、甘い脂がゆっくり溶けていく。
その瞬間がいい。
どちらかを選べなんて無理だなあ。
脇に熱々のご飯があれば、もっと無理だなあ。
で酒も合うんだな。
燗酒か芋焼酎のお湯割りを用意して、温めたこいつを舌の上に乗せ、脂がとろんと溶け始めたところに、すかさず温かい酒を流し込む。
たまらないですぜ、旦那。
黒豚時雨煮
困るのである。ご飯が進んで困るのである。
肉の味噌漬けにはたくさん出会ったけど、こんなに豚肉思いの味噌漬けは知らない。
味噌が豚をいたわっている。豚もそれを知っていて、共に高みに登ろうとしている。
だから味が丸い。
味噌のうま味と豚肉の甘みがまろやかに一体化して、味の角がないんだな。
肉に歯を立てれば、ギュッとめり込んで、噛むほどに豚の味が出る。
豚の脂は味噌によって引き締まり、3回ほど噛めば、ちゅるりと溶けていく。
だから、脂身のところだけこんがり焼いてやると、おいしいゾ。
ああ、ご飯が進んで困るなあ。