山地酪農牛乳。

食べ歩き ,

牛は人間が近寄っていっても、無視である。
だが近寄りすぎると、「食事の邪魔をされたくないわ」と、離れていく。
日本で数件しかない、自然交配、自然分娩、自然哺育、完全放牧の乳牛たちである。
牧草地を開発するのも、木は切り、土砂崩れを塞ぐために山芝は上あるが、整地はしない。土が弱まるからである。
耕地化不可能な山地急傾斜地に牧柵をめぐらし、乳牛を放ち、山林を切り開き、乳牛と人間との共同作業で放牧地を作る。
岩手県田野畑村で、吉塚さんは40数年間、山地酪農という哲学を貫き乳牛を育ててきた。
1.5haに1頭という原則を守るため、天候不順で草が育たぬときは、泣く泣く牛を手放すしかない時もあったという。
その牛乳は、不純がない。
そのチーズは、乳の香りに満ちて、心を温める。
そのバターは、軽やかで、香りを放ちながら、揮発するように溶けていく
どちらも飲み、食べた瞬間に、体が養分を感じ取る音が聞こえてくる。
「もっと牛を増やしたいのですが、そのためには耕地を増やさなくてはいけません。硬質チーズを作りたいのですが、とても手が回らないのです」。
そう四男は言いながら、明日に向かって、目を輝かせていた。
山地酪農牛乳。