小林さんの料理への感動は、説明してはいけないのかもしれない。
言葉にすればするほど、本心を裏切り、通り一遍の答えになってしまうかもしれない。
でも、その気持ちを眠らせてはいけないと、本能が煽るので書こう。
シャラン産の鴨とリードヴォー、ムール貝のラグーは、ホロホロ鳥の玉子と岩塩で作ったフェットチーネとからまり、そこへポロネギと塩漬けケイパー、松の実、粒胡椒、ペコリーノシチリアーノがあえてある。
これだけ役者がいるのに、皿の上は静かである。
小林シェフのことであるから、肉や貝の大きさ、チーズの塩気、酸味、それぞれの香りの立ち方、ポロネギの微かな苦みなどすべてに渡って、精緻に計算されているのだろう。
そこには森の静けさにも似た、自然の雄大と深さがある。
多くの味が存在するのに、無為なうまみがある。
複雑なはずなのに、シンプルな朴訥がある。
そして、食べるほどに味が膨らみ、うま味の混沌へと僕らを落としていく。
軽井沢の清廉な闇にふさわしい料理。
味に酔いながら、その奥底にある凄みに身震いをした。
「フォリオリーナ・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナ」にて。