失礼ながら顔はいかついが、恐らく温かい心を持った人だと思う。
家族や仲間を、最も大切にする方だと思う。
「ドミニクブシェ」でいただいたスペシャリテ、「牛テールの赤ワイン煮」は、ドミニクブシェさんのお人柄が、滲んでいた。
普段は大皿に盛られ、ポテトのピュレが別皿でどっさりと盛られるが、今回はコース外で特別にお願いしたため、ココット仕立てである。
スプーンを差し込んで、下のポテトピュレと一緒に口に運ぶ。
ああ、丸い。
芋の優しい甘みとゼラチン質の甘みに富む牛テール、キレのいい酸と深いうまみを含んだソースが、一瞬にして抱き合い、それぞれが突出することなく舌に広がっていく。
料理人の個性も意志も隠して、どこまでも自然な味である。
「ジャマン」や「オテルクリヨン」、「トゥールダルジャン」など、名だたる店で創造してきた独創的近代はないが、明らかにクラシックの重みはなく、料理の真味だけが静かに息づいて、感動させる。
そして昔食べたわけでもないのに、どこか懐かしい。
それは母親や祖母の料理を食べた時のように、心を包み、ゆっくりと温めてくれる。
しとやかで包容力を持った味わい。
日本人女性を奥さんに選んだ、彼らしい感性なのである。
失礼ながら顔はいかついが
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