「タタン姉妹が最初に作って、失敗したタルトは、こうだったのではないかと思うんです」。
菊池シェフはそう言って、大きなタルトを差し出した。
今まで数多くのタルトタタンを食べてきたが、こんな姿は見たことない。
通常はスライスしたリンゴを並べて作るが、これは半割にしたリンゴがぎっしりと詰まって、焼かれている。
シェフが切ると、焼けたリンゴの断面がみずみずしい。
切り口がリンゴのエキスで濡れて、輝いている。
「早くお食べ」。
リンゴがそう囁いている。
たまらず齧りついた。
ザクッ。
普通より厚く、たくましいタルトが弾けると、歯はリンゴに包まれた。
キャラメリゼの香ばしさと濃密な甘さが口いっぱいに広がり、その後からリンゴの果汁が広がっていく。
加熱されているのに、生の気配がある。
熟女の妖艶と少女の可憐が共存し、共鳴しあって、心を惑わす。
使っているリンゴはフジで、一つ一つお尻を見て、しまっているのだけを選りすぐって作るのだという。
そして型に詰め込んで、重さに耐えられるように生地を厚めに作ってかぶせ、じっくりと焼いて、一気にひっくり返す。
こうして、表面は鼈甲色に輝きながら、中は淡黄色に仕上がったタタンができ上がる。
夢中で食べ終え、まだ残ったタルトを見ながら
「すいません。もう一切れカットしてくれませんか」。
思わず、そうお願いしそうになった。
品川「L A R B R E」にて









