店の前に立つと、胡麻油の香りが漂って、鼻を濡らす。
天ぷら屋はこうでなくちゃ。
胃袋が、ぐうっと鳴る。
昼は、定食と天丼の二つ。
さあ、どちらにしようか。
悩んだ挙句、天丼にした。
店内には、師匠の早乙女さんから送られた、免許皆伝の書と海老の絵が、飾られている。
店主は、丼を拭き、ご飯を盛り、深く揚げた天ぷらを、熱々の丼つゆに潜らせ、ご飯に乗せた。
黒茶色に輝く天ぷらたちが、早く食べろと誘いかける。
たまらない。
海老2本、穴子、稚鮎、イカ、ピーマン、茄子、ズッキーニである。
海老からいこう。
海老を齧り、その勢いで、甘辛い丼つゆが染みたご飯をかき込む。
小さな幸せが膨らみ始める。
丼つゆは、甘辛いが、品がいい。
だからキレよく、箸を運ぶスピードを加速させる。
次にピーマン、イカ一齧り、ズッキーニ、穴子一齧り、茄子一齧りといき、稚鮎といった後、再び、イカ、ズッキーニ、茄子、アナゴといって、最後にエビで締めた。
エビは、ご飯換気力が強いので、最初と最後に持ってくる。
天丼は、エビに始まりエビに終わる。
いい天丼は、春風のように爽やかで暖かい。
岡山「千の種」にて。稚鮎