大坂のお好み焼き 色んな具、色んな生地、お好み焼き津々浦々(一九九九年十二月号)

芝福 谷町 変わらぬ味、変わらぬ風情

空堀商店街からはずれた細い路地にぽつりと一軒。その古ぼけた素朴な佇まいは、昭和初期にタイムスリップしたかのよう。店内も、波打つ三和土、旧式のかき氷機や扇風機、鉄板を埋め込んだ角が丸くなった木製テーブルと、昭和三十七年の創業以来、何も変わらず年だけを重ねた風情がある。

切り盛るのは老夫婦。焼くのは奥さんの役目。「豚玉」四百円は、豚肉を焼き、その上に生地を流して形を整え、ソースとマヨネーズ(好み)を塗って出来上がり。直径十七センチ、厚さ一センチ半と端正な姿。表面に○・五センチほどの薄皮が出来ており、食べるとパリリッといい音が響く。しかし中は対照的にねっとりとした食感でほんのり甘い。カリッと焼きあげられた豚肉も甘く、すべてが品よくまとまっている。おやつ代わりに子供がこづかいで食べた、四十年前のスタイルのよさをしみじみと感じるお好み焼き。「ねぎ焼き」五百五十円もうまい。

進化するお好み焼きのトップリーダー。清潔感溢れる店内には、カウンターとテーブル席があるが、ぜひカウンターの鉄板前で出来上がる様を見ることをお勧めする。

大阪市中央区上本町3-3-21 tel.=06-6762-1281

年中無休

 

呑喜帆亭 片町 先進派お好み焼きのうれしい独創

五十種程あるメニューは、ほとんどが独創的なお好み焼きで名前だけではちっともわからない。例えば、ふわりと卵焼きをかぶせた直径十七センチ、高さ九センチという山のような「ブッファラモード」千四百円は、切ると、ビーフシチューと三十種以上の香辛料と茸類を混ぜ合わせたという刺激的なサルサソースがどろりと流れ出るといった具合。生牡蠣に精妙に火を通し、辛子をきかせた「ユイトル・フォースバック」千三百八十円、ポテトと餅、べーコン入りの「おたやん」千百八十円、トマト、べーコン、フランクフルト入りで、サルサソースをかけ、モッツァレラと玉子の白身の薄焼きを載せた「アーリーアメリカン」千二百八十円など多彩。生地自体もおいしく、すべて入念に考えられた味の調和がある。支店が千日前にあり。

片町本店

大阪市都島区片町2-7-54 前田ビル2階

tel.=06-6351-8638

営業時間=11:00~14:00、17:00~22:00

定休日=土曜日

呑喜帆亭 (ダ・オーレ千日前店)

大阪市中央区千日前2-8-17

難波オリエンタルホテル1階

tel.=06-6644-8313

営業時間=11:00~23:00

年中無休

閉店

 

オモニ 桃谷 オモニの味はキャベツたっぷり庶民の味

繁華街から離れた路地に佇む小さな店だが、店を切り盛る名物オモニ(韓国語でお母さん)の味に魅了され、遠方からも訪れる客で連夜盛況。

最初にとろりとした生地を鉄板に流し、その上にキャベツと葱をどっさり載せ、さらにその上に具を載せ、再び生地をたらし、ひっくり返して鉄板の別の場所で割って広げた玉子をのっけるという方式。直径十九センチと大きい。具は、三段階に味付けしたすじ肉、油カス(ホルモンを揚げたもの)、ゲソ、おでん風味のコンニャク、薩摩芋、エンドウ豆、ナンキン、テッチャンと実に庶民的。

人気は「すじ肉ポッカ」九百円で、すじ肉とキムチ、青唐辛子入り。カリッと焼けた外側と甘いキャベツの味が絶妙。その他「うどんのせ下足天」七百円がうまい。

大阪市生野区桃谷3-3-2

tel.=06-6717-0094

営業時間=12:00~24:30

定休日=月曜日

 

桃太郎 生野万材橋 芋の甘味にはまる、不思議な生地

焼肉やお好み焼きなど、「安うてうまい」食べ物がひしめく生野区にある人気店。万材橋の袂の大きな暖簾が目印。店に人ると入口脇の細長い鉄板では、ひっきりなしにお好み焼きや焼きそばが焼かれている。

何よりの特徴は生地。ダシや山芋のほか、男爵芋をすりつぶして加えていると噂されるように、芋のような優しい甘さが生地に潜んでいて、ソースの辛味や具の風味と渾然一体となった味わいは、忘れられなくなる。直径十九センチ、厚さ二・五センチとお好み焼き自体も大きく、その生地のうまみを存分に堪能出来る。具は当然合うイモ(茹でじゃがいも)のほか、天ぷら(イカと小海老のかき揚げ)、冬場の牡蠣、すじ肉、豚、貝柱、玉玉(生地の中の玉子とは別に目玉焼きをのせる)など各百円~二百円で約十四種。お勧めは「豚イカいもすじ玉玉」千七十円。サイドオーダーでソースの甘さを緩和する皿ネギ百円もぜひ。広島風の洋食焼きもあり。

大阪市生野区勝山北5-4-15 tel.=06-6731-2233

営業時間=11:30~22:00

定休日=火曜日

 

やまもと 十三 溢れる葱と神戸牛のすじが織りなす至福の味わい

ネギ焼きの有名店。開店前から行列ができ、混雑時には入店に一時間も待つ。店内は鉄板を取り囲むカウンター席のみで、次々とねぎ焼きが作られる様は活気がある。

まずは名物「すじねぎ焼き」千百円を。薄くのばした生地の上に驚くほどの葱をどっさりと乗せ、さらに鰹節の粉、紅生姜、甘辛く煮たコンニャクと圧力釜でことことと炊きあげた神戸牛の筋肉を乗せて焼き上げ、見事な手さばきでひっくり返した後、レモン汁と醤油ダレをつけて仕上げる。生地がタコ焼きのネタのようにふわりとして甘いのが魅力で、そこにザクッとした葱の歯触りと刺激、こっくりとしたすじの味わい、程よくきいた紅生姜、コンニャクの食感が次々に加わって渾然一体となり、病み付きとなる。その他では、絶妙な玉子の火の通しで、フワリとした魅力的な食感を持ち、玉子と豚と生地の甘みが交差する「豚半焼き」もお勧め。店を切り盛る山本兄弟姉妹五人の愛想よく爽やかな応対も実に快適。

大阪市淀川区十三本町1-8-4

tel.=06-6308-4625

営業時間=13:00~22:00

定休日=日曜祭日

 

菊水 天満 具の風味を生かす行列の店

「さわらんとって下さいよ」と、半個室になったテーブルをあわただしく回って焼く名物主人はいなくなったが、今もその技は後を引き継ぐおばちゃんたちに受け継がれている。相変わらずの人気で、食事どき以外も長蛇の列。

その技は、まず半分のタネを鉄板にひき、その上に具、残りのタネをかぶせ、二分二十秒で動かし、四分二十秒で返し、八分で動かす。「まだ生やでぇ」と声をかけたあと、十三分で返し、十七分で再度返して完成。キャベツがつながる程度しか小麦粉が少ないのが特徴で、それが具の味を活かし、具のエキスが生地に染み込む結果となる。直径十八センチ、厚さ二・五センチと大きく、中がふわりと焼き上がって、優しいうまみにあふれている。

甘い自家製ソース自体にも柔らかなうまみがあり、それが生地とよく合う。辛いソースは瓶で添えられ、マヨネーズは言えば塗ってくれる。中心で蒸された具もおいしく、中でもプリッとした食感のイカがいい。豚、イカ、牛、エビ、蛸入りの「五味焼き」千六百三十円、「素焼き」六百十円、豚、牛、イカ、エビ、蛸各千二十円。

大阪市北区天神橋4-4-10 tel.=06-6351-6743

営業時間=15:00~20:00

定休日=火曜日

2009年閉店

 

伊古奈 東大阪吟味された具と生地との出合い

近隣に住んでいた司馬遼太郎氏が愛した店として有名。

広々とした店内は、木のテーブルと椅子が整然と並べられ、壁には画廊の如く須田剋太画伯の絵が飾られている。

お好み焼きは、各テーブルの鉄板で客が焼く。まずは「特製伊古奈焼き」千円をぜひ。北海道産帆立一個、天然エビニ匹、鹿児島産黒豚バラ肉と吟味した具に、少量の粉、微塵切りキャベツ、長芋、玉子の黄身、少量のネギと紅生姜といった布陣。出来上がりは厚さ三センチ、直径二十センチにもなるボリューム。長芋が多いためもっちりとした食感を持ち、そんな生地が具の滋味と優しく溶け合う。自家製の甘いソースを主体に、カレーのような刺激を持つ辛い自家製ドロソースをアクセントに塗るといい。その他、甘辛く煮た牛すじが大量に入る、太麺の「牛すじ焼きそば」九百円もお勧め。「牛すじとキャベッのヤンニョムジャン煮」などの小鉢類、「パンナコッタ」や「とんがらしアイス」などデザートも充実。最寄り駅から遠いが、わざわざ足を運ぶ価値のある店である。

大阪市宝持1-2-18

tel.=06-6725-0430

営業時間=18:00~23:00

定休日=水曜日

2010年 1月閉店

 

風月 鶴橋

キャベツが自慢の具だくさんお好み焼き

大阪各地に支店がある人気のお好み焼き屋。二階建ての店内はいつも若い客中心に賑わっている。

大量のキャベツを入れ粉はつながる程度、よってキャベツの甘みが出た味わい。すべて店員が焼き、鉄板に牛脂をひき、大量キャベツ、具、玉子、生地を一気に広げる。これでまとまるのかいなと思うが、不思議とまとまり完成する。人気は茹でた生麺入りの「ミックスモダン」千百五十円で、厚さ六センチのボリューム。最後に生卵を落として混ぜ合わせる「焼きそば」五百八十円や具が多く入った「チャンポン」九百三十円もおいしい。

大阪市天王寺区下味原町12-18

tel.=06-6771-7938

営業時間=11:30~21:50

年中無休

 

 

写真はイメージ