この世のもので作られているのに、現実から離れている。
一口食べた瞬間に、夢へと誘う。
良きデザートは、そうでなければいけない。
「淡い」と名付けられたケーキは、まさにそれを体現していた。
その白き小さなケーキは、イタリアンメレンゲの中にマスカルポーネとフロマージュブランのムース、リュバーブ、フランボワーズコンフィチュール クッキー生地で構成されたものである。
表面には考えられないほど薄く、メレンゲがまとっていて、唇に触れた瞬間、うたかたとなって消え、チーズムースに包まれる。
その無限の儚さが胸を焦らすと、チーズの濃密が舌に流れ、リュバーブの酸味が花開く。
なんと繊細でエレガントなのだろう。
一瞬自分が、自分の味覚や嗅覚、触覚が、どうなってしまたのかわからない感覚に陥って、頭が眩むほどの複雑な不思議がある。
だが、複雑でありながらも、限りなく自然でもある。
職人の意識や矜持などは微塵も感じさせず、太古から存在していたかのように、馴染んでいる。
食べ終わった後も、見えざる真なるものが、甘美な余韻となって、いつまでも漂う。
僕らは、新たな自然の力を発見した時のように、陶然となりながら、夢の世界へと沈んでいく。