〜私は国境を尊重する〜
新宿「アカシア」の「シチカレー」はどうだろう。
運ばれるや、すでにシチューにカレーが侵犯している。
ただちにご飯で、万里の長城の如く国境を定め、両者が混ざらないようにして、食べすすむ。
時折カレーがシチューへ表敬訪問。
時折シチューがカレーに時候の挨拶。
しかし勝手には交わらせない。
最後の最後までルールは守る。
やがて国境は細くなり、崩壊し、融合する。
だがその時、両者を受け止めるべき国境(米)は存在を消し、あらためて国境という存在の偉大さをを思い知るのであった。
田町「ホーカーズ」では、国境が曖昧になってしまった。
ドライカレーという領土に、インドチキンカレー、玉子まで頼んでしまったからである。
カレーは同盟国とはいえ、いきなりインドカレーを来訪させてはいけない。
半熟卵は非武装中立国とはいえ、いきなり玉子の入国を許してもいけない。
まず本国のドライカレーを、三口ほど食べすすむ。
しかる後、同盟国を三分の一ほど受け入れる。
だが首都でなく、国のはずれに招き入れ、入念に意見を交換する。
うまい。
両者の主張と相互文化への理解がが、うまさを増幅させている。
ここで中立国を参画させるが、同盟国との外交地点とは反対側の領土、やはり国のはずれにて歓待する。
うまい。
中立国ならではの穏やかさが、その甘みが、本国の先走りしがちな一本気を、丸く収拾している。
三地区での、互いのよさを生かした展開をにらみ合い、噛み締めながら、ついに時が来たり。
三者を一気に出会わせる。
ああ、美しい。混沌の危うき美しさ。