噛んだ瞬間、天露の甘みが滴った。

食べ歩き ,

ポトリ。
噛んだ瞬間、天露の甘みが滴った。
シャコは、自己消化が激しく、採られた瞬間から味が落ちていくのだという。
一刻を争う味なのである。
そのため工藤さんは、港で漁師から受け取ったら、即、車を飛ばして店まで運ぶ。
「できれば救急車で運びたいくらいです」。
店で手当てをし、自己消化の速度を緩める。
切り口から見えるオレンジ色の卵は、とろりと輝いて、我々を誘う。
柔らかな身に、そっと歯を入れる。
ポタポタと、濃密な甘みが滴り落ちる。
それは蜂蜜のようでありながら、際どく、純真なようでありながら、色香をたっぷりと含んだ、危ない甘みである。
心は熱く、脳みそが溶ける。
見てはいけない、命の琴線に触れるとは、こういうことなのだろうか。
札幌「鮨一幸」
全握りと魚は、別コラムを参照してください