札幌「ラサンテ」

噛め、噛め、もっと噛め!

食べ歩き ,

「噛んで。もっと噛んで」。
肉が耳元で囁く。
マトンである。
石田めん羊牧場の4歳になるマトンである。
「窯で数時間焼いただけです」と、高橋シェフはことなげに言う。
しかしその羊は、今まで食べてきたどの羊よりも生命感に富んでいた。
脂が違う。
引き締まっていて盛り上がり、脂なのに、肉を噛んでいるような躍動がある。
そして肉に歯が抱かれれば、勇猛な肉汁が湧き出でて、口を満たす。
加熱された肉を噛んで食べ、養分として取り込む悦びが、先史時代から綿々と享受してきた本能的喜歓喜が、体に満ちていく感覚が甦る。
脳は命ずる。
「噛め、噛め、もっと噛め!」
鼻息は荒くなり、上気し、鼓動は高まり、立ち上がって叫びたくなる。
それでいて、まったくマトン臭がない。
どこまでも澄んだ草のような香りを、さらりとたなびかせつつ、猛々しい。
これはいけません。
今こう書いていても味が蘇り、今すぐにでもかぶりつきたくなる。
本能をわしづかみする、肉料理である。