味が舌に切れ込んでこない。鼻を突かない。
優しく広がって、素直に細胞と溶け合う。健やかな気分に満たされる。
そんな野菜だった。
栃木県の通称エビベジ、海老原ファームの野菜を使った会が、ニューオータニのサツキで開かれた。
通常の1.7倍から2倍の時間をかけて、ゆっくり育てられた野菜は、舌触りが滑らかできめ細かい。
火を通されて、ムースのようにふわりと舌に広がっていく。
土の香りは逆に弱く、野菜が放つ香りだけが凝縮されている。
人参、ズッキイーに、ジャガイモ、坊ちゃん南瓜、トマト。
野菜が、自らの力を感じながらのびやかに育っている。
いい土と過剰ではない養分を与えられ、本来の素養のまま育っている。
そのことを感じさせる純粋が、味に満ちている。
そしていつまでもいつまでも噛んでいたい。
食べて素直に、そう願う野菜である。
味が舌に切れ込んでこない
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