味が濃い。
おもわず笑った。
一口噛むと、丸い塩気に持ち上げられた肉の旨みが、舌の上で爆発する。
「個体差があるのですが、今日のは特にいい肉質でした」。と、宇佐美シェフが言う。
きめ細やかな肉を噛めば、猛々しく胃袋を掴み、食欲が焚きつけられるのだが、密かに優しさも持ち合わせている。
脂も柔らかく、筋もしなやかである。
牛の種は、ノワールバルティークといって、元はホルスタイン系の牛で、ドイツ北部から、ポーランドで飼育され、気候が寒いゆえに小型で霜が入りやすいのだという。
パリでも扱っているのは、このレストランだけである。
もう胡椒も添えられた三種類のソースもいらない。
ガシガシと、ワシワシと、肉塊をいつまでも噛んでいたい。
おそらく800gくらいだと思うが、一人でも軽いだろう。
アミューズに、牛の生ハムとナスとカカオのムース。
前菜は、香気がエレガントなセロリラブとトリュフの料理と、ヴィネグレットの酸味と塩気がピタリと決まった、チコリとラルドン、ポーチドエッグのサラダ。
そしてデセールは、同席のスイーツ男子がほっといたら4皿も5皿も頼んじゃいそうな気配を察して、二人で3皿。
ニュージーランドの流行デザート「パブロワ」のイチジクとフランボワーズ。
上に乗ったクーリムが、天使の羽のように軽く、ルバーブの酸味が憎い、「苺のクープグラッセ」に、スペシャリテである、焼いてペッペーを振ったパイナップルとレモングラスのアイスクリーム。
「クローバーグリルにて」
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