こんな卵の味には、今まで出会ったことはない。
甘いが、普通の卵の甘みではない。
甘みが能動的ではなく、丸く、穏やかなのである。
そして余韻が長い。
いつまでもいつまでも、春の陽だまりのような、優しさがたなびいている。
甘みの質が違う。
口に含むと、品のある甘みが少しづつ染み出して、長らく口にとどまるのである。
鶏出汁は、丸どりを柳刃でゆっくりと切って煮出したものだという。
そして卵は、美味しい卵を産んでくれる鶏をひよこから育てている。
鹿肉や鶏大好きな青草の柔らかい部分。鹿の骨や魚の骨を焼いて、育てているのだという。
今まで本当の卵の味を知らなかったのかもしれない。
そう思わせるほど、その茶碗蒸しには、”キレ”という品徳があった。
NOMIにて。