加水率90

食べ歩き ,

「とりあえず今パンを焼いたので、先にパンをつまみますか?」
そんな軽いシェフの言葉で出されたパンが、凄まじかった。
焦げる寸前まで、ギリギリに焼かれたクラストは、極限まで薄く、黒い香りを放ちながら、パリンッと弾ける。
そして加水率90だというクラムは、もっちりと粘り強いが、軽やかで、噛めば噛むほどに味わいが深まつていく。
優しい甘みがあるが、その甘みは一言で言い表せない不思議を含んでいる。
自ら発酵させたリンゴジュースを生地に練り込んでいるというが、それとてうまくいく時と、そうでない時があるとシェフは言われた.
人間が踏み込むことのできない天然の領域が、この味を生み出しているのか?
味わいの深みと、丸い丸い、温かみを生み出しているのか?
自然であるということは、未知の複雑があるということを、そのパンは、教えてくれるのだった。
長崎「プルミエクリュ」にて。