前世はインド人かもしれない。
週に一度、インド料理店症候群に襲われるのだ。
それだけでなく、いったん食べると、毎日毎食食べたくなる。
これは昔からの性癖だ。
香りの豊かさと複雑性。
インド料理の虜になった理由はそこにある。
味の本質は、香りにあると信じている。
ほら、風邪にかかるとおいしくないでしょ。
それは舌のマヒより、鼻が利かないせいなのである。
香りのおいしさ確信犯、それがインド料理なのだ。
そのことを知りたくば、南インド料理店に行くことをおすすめする。
脂分のコクを伴った豊かな味わいの北インド料理は、日本人に好まれるせいもあって店は多い。
しかし素朴な南インド料理こそ、香りの確信犯を実感させる料理である。
そんな魅力を手軽に味わえるのが、「ダバインディア」だ。
数種のカレーを、甘い香りのするバスティマライスにかけ、混ぜ合わせて食べれば、滋養と香りが交錯してうっとりとなる。
その基本を固めるのがラッサムスープと野菜のカレー、サンバルだ。
タマリンドの酸味が利いたスープと野菜の優しい風味がにじみ出たカレーに、にんにくや黒胡椒、マスタードシードなどのスパイス類の香りが漂い、食欲を揺さぶり、気分を高揚させていく。
食後に訪れるのは穏やかな充実感。
これぞ南インド料理の魅力である。
この穏やかな気分は、ベジタリアンの専門店、にもある。
どの料理も塩が舌に当たらず、カボチャの自然な甘みやほうれん草の青々しさ、レンズ豆の甘みや生き生きとしたトマトの酸味など、素直に野菜の風味が生きていて、健やかな精神を運んでくれる。
初心者はまず、大豆グルテンを肉のように固めたナタラジカレーなど、三種類のカレーを盛り合わせた昼のランチから試してみるのをおすすめしたい。
さて最後に、こうしたインド料理店のカレーをおいしく食べるコツはなにか。
それは手で食べることにある。
おにぎりやパンを箸やフォークで食べると味気ないのと同様に、手で食べるカレーには、別の味わいがある。
そのことを二十年前に教えてくれたのが、西麻布にあった「ビンディ」の主人だった。
右手の指先でこね混ぜ、すくいあげたら親指で押し出すように口に入れる。
カレーと体が一体化した恍惚感は、一度知ったらやめられなくなるゾ。
是非。
ああ困った、こうして書いているうちに、また無性にカレーが食べたくなってきたぁ。