ビール歴39年、初の工場見学である。
今まで何回も来ようと思った。しかしクセになったらどうしようという妙な不安があり、踏み出せなかった。
サントリーのビール工場は、武蔵野の大地にある。1963年4月20日、良質な水を求めて、この地に建てられたのだという。
美しい女性スタッフに出迎えられ、3階の試飲室へと上がる。なにかこう、初恋の人に会うようで、緊張するなあ。
エレベーターを降りた瞬間、華やかな香りに包まれた。ホップの香りである。喉がごくりと鳴った。
女性スタッフから、丁寧な説明を受け、さらに醸造技師長の梅澤祐輔さんが細かく解説くださるという、ゼータクな工場見学である。
素材選び→製麦→仕込み→発酵→貯酒→ろ過→缶詰・箱詰に至る工程を、順を追って説明していただいた。素材では、深層地下天然水を100%生かした、サントリーだけの水へのこだわりや、うま味の元のタンパク質含有量が多いというダイヤモンド麦芽に加え、厳選した欧州産のホップなど、説明を聞くだけで、ビールへの愛を感じる。
麦芽を食べさせてもらうと、節分の豆のような香ばしさとほのかな甘みがあり、ホップを嗅げば、甘い華やかな香りが上ってくる。
次が仕込みである。まずはダブルデコクション製法といって、麦汁の温度を上げながら、2回煮沸するのだという。これにより、麦芽本来のうま味とコクを引き出すのだという。
次がホップを加えてアロマリッチポッピング。要は二回に分けてホップを入れる製法らしい。ホップのほろ苦みを少なくし、香りを高める効果だという。「要は追いがつおですね」というと、梅澤さんは苦笑された。
その後発酵〜貯酒〜ろ過を経て、プレミアムモルツは誕生する。説明を受けるほどにビールが飲みたくなる、罪な工場見学である。
さあいよい試飲だぞ。試飲室にて、ビールをいただいく。
すうっ。出来立て、注ぎたてのビールは、なんの抵抗もなく舌を過ぎ、喉へと落ちていく。甘い香りが鼻に抜け、ビールのコクが広がり、もう一杯飲むかと誘いかける。
ああ、あまりにもスムーズで酔わないんじゃないかと思うほど、切れ味がいい。すいません、おかわりをください。
梅澤さんは毎日、チェックのために飲まれているという。「大変ですね」というと、
「ビールによる小さな幸せを、提供するのが僕の仕事です」。ビール造りが楽しくて仕方ないという雰囲気の梅澤さんは、顔いっぱいに屈託のない笑顔を浮かべた。