冬になるとシチューが恋しくなる。
ソースたっぷりのビーフシチューを、フーフーと息をかけながら食べ、ぬくぬくと体が温まっていく、そんな幸せを満喫したくなる。
手を掛けて作られたビーフシチューは、洋食の華だ。
ハレの日のご馳走だ。
だからこそ大いなる決意をもって食べたい。
安価で提供する店もいいけど、妙に甘かったり、粉っぽさが気になったり、肉の味が抜けてボソボソだったりと、寂しい気分になる時がある。
ゆえに僕は、ビーフシチューを食べるぞと決めたら、ここぞとばかりお金をおごる。意を決してぽんたに出かけるのである。
月に一回、週末に登場するぽんたのビーフシチューは四千円。
一皿の料理としては、高級フランス料理店並みの値段である。
だがそこには、日々の食事を節約しても会いたい魅力が詰まっている。
長さ約十五センチ、幅約七センチ、厚さ約三・五センチ。
シチューにおけるこんな肉塊を僕は知らない。
運ばれるやいなや、その堂々たる姿に目を奪われ、立ちのぼるソースの香りに目を細める。
力入れずとも切れる肉は、ほろりと崩れ、滋味がじんわりとにじみ出る。
艶やかに輝くソースは、やや赤ワインの酸味を効かせながら、甘味や旨味が渾然一体となってまあるくまとまり、比類なき味の深みを生み出している。
そのソースと肉が口の中で溶け合う時の、妖艶な味わい。
これこそがビーフシチューの魅力であり、同じく大きな塊で皿に鎮座する、この店のタンシチュ
ーとともに、シチューの魅力を簡潔かつ圧倒的な力で知らしめてくれる名作である。
フジキッチンもまた、素直に魅力が伝わってくる一軒だ。
名物だけに、店に入るとドミグラスソースの甘い香りが漂ってきて、胃袋が刺激される。
ソーースは甘味を押さえ、微かな苦味と酸味、深いコクが、バランスよく調和した味わいで、誠に洗練されている。
そいつがとろりとほぐれる米沢牛バラ肉の旨味と溶け合い、おいしさを倍加させるのである。
さらに忘れてはならないのが、ソースの味とご飯との相性のよさ。
ぽんたもこの店も、残ったソースにご飯をからめ、余すことなく食べる喜びを忘れてはいけない。
さて最後にお手軽な店も紹介しよう。エリーゼだ。
湯気をもうもうと立てて運ばれるシチューは、赤茶色。
甘味のやや強いしっかりとしたコクがあり、なによりもご飯が猛烈に恋しくなる味わいである。
肉も旨味が逃げておらず、しっとりと崩れながらソースとからんでいく。廉価ながら、丁寧な仕事に舌も心も温められるビーフシチューだ。
現在エリーゼはシチューやってません
その味は四谷三丁目の「キッチンたか¥へ