みなここのハンバーグがおいしいという。
世界一という人もいる。
しかしみなさん、どういう風においしいのかを明記していない。
ジューシーだ、いや甘いなどと表現する人もいたが、 それだけならわざわざここに来ない。
それに、ハンバーグがジューシーなのに越したことはないが、 ハンバーグの魅力とは、はたして「ジューシー」なのだろうか?
「俺の○○」も行ってみたが、どうも勘違いしているように思う。
そこで、ここのハンバーグを食べた。
ご存知のように、この店のステーキの基本はヒレ肉である。
シャトーブリアンだけを使うので、一頭で四人前しかできない。
ハンバーグはその際に残った、ヒレ肉の一番太い部分と、 尖った細い部分の脂を混ぜて作る。
オーブンで何度も出し入れして出来上がったそいつは、 ふっくらと膨らんで皿に鎮座している。
一口食べてうなった。
肉の香りが口の中に充満する。
そう、ハンバーグの魅力とは、「肉の香り」なのだ。
香り乏しいハンバーグがいかに多いことか。
肉の香りが、内なる野生を刺激して、「食べる」喜びが体を駆け巡る。
できることなら、一人で、肉汁を滴らせ、撒き散らしながらかぶりつきたい。
手でつかんで、わき目も振らず、食らいつきたい。
コーフンした頭で想像した。
ストレスをかけないようじっくりと火が入れられているため、 余計に香りが生かされている。
濃密な脂の風味が口の中に溢れるが、後口が風のように軽い。
これが吟味された和牛ならではの品格の証だろう。
交互にやってくる野生と上品が、熱狂を呼ぶ。
「ステーキは水。ハンバーグは空気をイメージして作っています」とは、河村さん。
八千円はとんでもない値段だが、
これは高いか安いかなどと考える問題ではない。