郷土の伝統料理を残そう。
しかし、本当に料理を残そうと思うなら、伝統のやり方を深く理解しつつ、新たに翻訳しなければならない。
伝承と伝統は違うからである。
伝承とは、既存のやり方をそのまま受け継いでいくものだが、伝統とはその文化に敬意を払いつつ、ユーザーの指向をキャチして、現代の手法でよりよくなるなら、新たなやり方でやっていくことである。
ある意味モダナイズすることが必要なのではないだろうか。
ハイアットリージェンシー瀬良垣の日本料理店「シラカチ」で始められた琉球懐石には、その風が吹いていた。
椀ものは、いなむどぅち風で、豚肉や野菜を味噌汁仕立てにし、砂糖を入れた、本来は甘い豚汁である。
全部短冊に切って入れるので、沢煮湾の沖縄風と言ってもいい。
その甘みは現代では重い。
そのため久米島の白味噌に西京味噌の甘味だけを加えて仕立てられていた。
ほっと心を撫でるような甘さである。
そこには、やんばるの地鶏と合鴨を合わせたつみれに、近江蒟蒻、恩納産しいたけ、かまぼこが細切りにされ、からし菜、溶き辛子が添えられる。
それは、うちなんちゅうでもないのに、どこか懐かしく感じる味わいだった。