以前勤めていた神宮前の会社から

食べ歩き ,

以前勤めていた神宮前の会社から、仙寿院前にあるスタジオに行く用事があるときには、いつも30分早く出た。
途中で「GHEE」のカレーを食べるためである。
村上春樹氏が通っていたり、NIGO氏がバイトしていたり、安西水丸さんもお好きな店だった。
開店は1983年。裏原宿という言葉もなく、アンダーカバーやA BATHING APEもない時代である。
「GHEE」では、色々食べようと思うんだけど、いつもバターチキンとキーマにしてしまう自分が、少し悲しかった。
本格インド料理はでない。インド風といえばそうなのだが、どこか日本人の優しさと律儀さが味に染みていて、辛いのにほっこりとした気分になるカレーだった。
しかし2005年に閉店してしまう。
その後「GHEE」信奉者により、跡地や市ヶ谷や京都や新潟などに、同じスタイルのカレーを出す店が増えていく。
そしてついに去年、赤出川治シェフの作るカレーが復活を遂げた。
昼だけではあるが、跡地から20mほど離れた、「ブラウンホース」である。
今日は、チキンへの思いを断ち切ってビーフとキーマにしてみた。
ビーフの辛さが、よくぞ頼んでくれたと口腔をキックする。
他店より豪放なキーマのクローブの香りに、懐かしさが滲む。
好青年だったシェフも白髪、私もおっさんになったが、食後のほっこりとした気持ちは変わらない。
店の片隅では、「GHEE」のカレーが生まれた頃には、まだ生を受けていなかった20代の男女が、おいしそうにカレーをほおばっていた

食べて一言「えろい」。
駒沢「イルジョット」肉焼き名人高橋シェフの焼いた熟成肉は、「噛め!」と叫び、仰せの通りに噛みしめれば、まったくもってエロい肉汁が溢れるのであった。