尾張名古屋で生まれ、江戸で広まったとされるいなり寿司だが、関西圏の方も大好物である。
ことに京都の人は、お揚げが大好きである。
「京都人だけが食べている」入江敦彦著によれば、「日本一の牛食い人種は、日本一の油揚げ人種」であるという。
野菜料理に合わせ、きざみきつねうどんや揚げカレーうどんや丼、衣笠丼など、関東の人間より、よくよくお揚げを愛している。
いなり寿司もまた偏愛されている
「いづう」と「いづ重」を食べ比べた。
同じ系列ながら、それぞれの思いが詰まっている。
「いづう」は、ご存知創業 天明元年(1781)から足される老舗である。
「いづ重」は、「いづう」で修行を積んだ初代が、明治末期に開店させた、こちらも老舗となる。
八坂神社の正面にあって、いなり寿司は、「昔ながらの」と説明書きがついた通常のものと焼き九条ネギを混ぜ込んだ「大人のいなり寿司」の2種類がある。
東京のいなり寿司の多くは俵形だが、こちらのいなり寿司は関西に多く見られる三角型である。
この三角型は、一説によると、狐の耳に似せたという。
少し無骨で、噛めば、厚めの皮からジュワッと甘い汁が広がって、笑顔を呼ぶ。
ご飯には麻の実が混ぜ込んであり、それが時折カリッガリット弾けて、楽しい。
そして食べ終わる頃に、柚子の香りが広がっていく。
よくよく味わえば、ごぼうの風味もある。
お揚げが、ふんわりとかぶさっているような包み方もよく、素朴さの中に京都人のいなり愛が詰まった風情があるいなり寿司である。
一方「いづう」はどうだろう。
こちらは祇園の本店では売っていない。
京都大丸店地下にある「いづう」だけで売っているようなのである。
見れば可愛らしく、京都では珍しい俵形を三つ葉で結びあげている。
お揚げは、「熊本名産の南関揚げ」を使っているという。
何と言っても油揚げに含ませた出汁がうまい。
食べるたびに、しみじみとうまいなあと呟く。
皮は薄く、ご飯と揚げの一体感があってエレガントである。
食べればどこからか柚子香が漂って、ゴマの香りと出汁の香りが追いかける。
甘みはあるが感じさせず、酸味の利かせ方が絶妙で、一個食べると味が切れて、つい何個でも食べてしまういなり寿司である。
京都の人に聞いてもこの2軒は圧倒的で、人気は二分するようだが、「いづ重」派が多いようである。
やはり実質を重んじる京都人らしい。
さあ、あなたは、どちらがお好きだろうか。