中野「ブリック」

二度と会えぬ。

食べ歩き ,

怖くて怖くて、入る勇気が湧かなかった。
2020年5月のコロナ禍に、突然56年の歴史を閉じた、中野のトリスバー「ブリック」の再開である。
「以前の店の雰囲気を壊さぬよう細心の注意を払って、改修改善しました」と、去年11月に開店した時に、新経営者が語っていたが、裏切られやしないかと、怖かった。
カフェ営業はいい。
前の雰囲気や料理がなくともいい。
そう思いながらも、自分の大切な思い出が壊されそうで、半年以上入ることはなかった。
先日思い切って入ってみた。
あのカウンターは、半分にされ、調理場になっていた。
テーブル席はそのままである。
メニューを見れば、トリハイが、280円であるではないか。
早速頼む。
だがこれである。
思わず「これは何ですか?」と、聞くと
「トリハイです」と、バイトの若い女性が、不思議そうな顔をして答える。
ジョッキに入れられ、氷を入れられたトリハイが、悲しい。やるせない。
後ろのサラリーマンは、焼き鳥❗️を食べている。
外装は変わらない。内装もカウンターを除けば変わらない。
だがまったく別な店になってしまった。
内外装を変えてない分、余計に虚しい。
思い出を引きずったおじさんが、出掛けてはいけないのだろう。
文句を言っちゃ、いけない。
トリハイを作る鮮やかな手つきや、マスターやメインバーテンダーの顔、世界一のマカロニサラダや、完璧なコンビネーションサラダ、独特なハムエッグの味には、2度と出会えぬのだという現実を叩きつけられた。
幻想や希望的推測を、いつまでも抱いてはいけない。
でも、僕の中では永遠に生き続けていく。