丸デブ

食べ歩き ,

岐阜。「丸デブ」総本店。

ネーミングが素晴らしい。
例えば、若い店主が狙って東京で名づけたら、間違いなくラーメンフリーク達が騒ぎだす。

しかし創業は大正六年。

店名の由来は、浅草「来来軒」で修行した店主が、太っていたからに過ぎないという。
自分の体型を、店名にするところが面白い。
支店もないのに総本店としちゃうところが素晴らしい。

しかし。
デブだからいい。
細ヤセ総本店
顔ナガ総本店
足ホソ総本店
尻デカ総本店
たらこ唇総本店
だと、客は来ない。

現在で三代目だという。

 

93年間、中華そばとワンタンの二種類だけでやってきたのですね。
その間、
チャーシュー麺もタンメンも、ワンタンメンも
大盛りでさえも、手を出そうとしなかったのですね。
これは、ある種の悟りではないでしょうか。

でその中華そば。
15年ほど前まで250円だったという中華そば。
現在400円。

「中華そば」。と頼めば、
「そばひとつ」と、おばさんが通し
「あいよ」と、おじさん答える。
おじさんは、推定60くらい。
20で店やりゃ100万回以上このやり取りをしてるんだね。
運ばれました。

つゆがなみなみ。こぼれそう。
アルミのレンゲで汁を飲む。

ん?
ラーメンというより日本そば。
鰹節の香り少ない鳥南蛮。
日本そばの汁に、わずかな脂が浮かんでる。

麺をすすれば
ん?
ラーメンというより、細うどん。
ほんのり黄色がかった柔らかうどん。
麺はブツブツと切れ、しなしなである。

現代の「うまい」からは、遠く離れた味である。
現代の「ラーメンの常識」からは、遠く離れた味である。

だが、支那そばとはこういうものである。
といわれれば、ウムといわざるを得ない。

なにしろ93年間、客を魅了し続けてきたのだから。

また岐阜にきたら、会いに行こう。
どこにもない、昔々の贅沢に。