神田「神田笹鮨」

並 ち ら し 千二百円

食べ歩き ,

「神田笹鮨」は、先々代が明治二十二年に屋台を始め、先代が五十年前に現在の場所に店を構えたという、永い歴史をもつ店だ。
しかし古い店にありがちな敷居の高さはない。

下町のすし屋らしい、気さくな雰囲気に溢れていて、例え初めての客であろうとも、例えカウンターに座って並ちらしを頼もうとも、快く対応してくれる。

そして店の永い歴史は、ガラスのネタケースの中で脈々と息づいている。煮いか、煮蛤、酢〆めの小肌やさよりなど、江戸前の仕事が施されたすし種が、ケースの中で鈍い光沢を放っているのだ。
そんな江戸前のすし種を、気軽にいただけるのが並ちらしである。

まず、しっかりと酢のきいた酢飯に、もみ海苔と海老おぼろが散らされ、その上に、まぐろの赤身、煮いか、生のいか、春子や小肌などの酢〆めの種、穴子、椎茸の飴煮、薄焼卵が彩られる。
両脇にまぐろの赤を配し、手前と奥に生いかの白、中央にツメがひかれた煮もの類の茶、その下では小肌が渋く光り、卵焼きの黄とおぼろの桜色が、所々に顔を覗かせた配色。
それは決して派手な色合いではないが、すぐにでも丼を持ってかっこみたくなる表情である。
そこで早速口にすれば、歯切れよく、うまみがひき出た煮いかや、ネットリと甘い生いか、酢がきいた光りもの、ふわりと柔らかい、芝海老のすり身入り卵焼きなどがおいしく、食べ進めば丼の底からは、味が染みた干瓢が現れる。
さらに食べ方も、全体をざっくり混ぜ合わせてもよし、一つ一つ種の味わいを確かめあう、ちらし本来の喜びにひたるもよし、光ものとおぼろを合わしたり、生姜とまぐろを合わして食べるもよしと、楽しみはつきないのだ。

写真は現在2千円