「茶色ばかりですが、なにか?」
名古屋駅のうまいもん通りのポスターには、そう書かれていた。
煮込みうどん、味噌カツ、エビフライ、ヨコイのスパ、や小倉トースト、鉄板ナポリタンなど、味の濃い料理が並んでいる。
こうしたいわゆる「なごやめし」愛する名古屋人には、蕎麦は無縁のもの思っていた。
味は淡いし、麺と言ったら、きしめんですもん。
ところが郊外の不便な場所にある店に到着すると、開店早々だというのに、すでに三組が並んでいる。
満席の店内では、70代の夫婦や男性グループから家族連れ、20代のカップルまで幅広い。
僕の勝手な名古屋人のイメージとは、ほど遠い。
これは江戸の人としても襟を正し、そばと向き合わなければいけない。
そう思い、一番高価なセットをお願いした。
在来種そばがき 、田舎二八そば(半盛)、滋賀在来種を使ったという、がんこざる(半盛)、広島産を使ったという在来種十割のセット2980円である。
ついでにそば前として、酒もないのに玉子焼きも頼んでしまった。
そばがきは、もっちりとしたタイプで、香りが高い。
そして次に運ばれた「がんこざる」で目を丸くした。
塩をかけてたぐる。
ああなんという香りだろう。
青草のような香りがかすかにした後に、甘い香りが立ち上がって、口と鼻腔を満たす。
微かに焦げたような香りもする。
そして噛めば、うっすらと甘い。
その甘さは媚びた甘さではない。
野生の環境を生き抜くために、そばという穀物が身につけた甘さである。
だから甘さに品格がある。
スキッと背筋を伸ばす甘さなのである。
こんなそばにはなかなか出会えない。
さらに、在来種十割が素晴らしかった。
がんこざるより香りがさらに膨らんで、生命力の強さを感じる。
もう半分もたぐると、強さにやられて、そばつゆで食べたくなってくる。
これがそばである。
名古屋メシに比べると、味は濃くはない。
しかし十分すぎるほど、そばとしての存在感は濃い。
おそるべし名古屋である。
コーフンしすぎて在来種十割撮るの忘れました。