一口食べた瞬間、鮎が口の中で跳ねた。

食べ歩き ,

一口食べた瞬間、鮎が口の中で跳ねた。
感動の余韻が、今朝まで続いている。
「珍しい料理とうまいものは違う」。この事をはき違えている人は多い。
特に個性的な料理を、日本料理で実現するのは難しい。
しかし名古屋「野嵯和」の15皿は違った。
15皿すべてが、初めて出会う料理であり、味の想像がつかぬ料理なのであり、心の機を動かす料理なのである。
例えばこの「鮎のコロッケ」。
子持ち鮎の身を焼き、すり潰して苦うるかをまぜ、きぬかつぎと合わせて丸め、コロッケにする。
上にかけたのは、真子を焼いて粉にし、味付けした真子粉。
下はルッコラのオリーブオイルあえ。
一口食べた瞬間、鮎が口の中で跳ね、笑いだしてしまった。
本当においしい料理は、「おいしい」という前に笑い出す。
鮎の味と香りの凝縮があって、それを里芋のねっとりとした甘みが優しく包み込む。
真子の風味が加わり、丸ごとの子持ち鮎が、たった一口に詰まっている。
合間にルッコラを食べれば、苦みと香りが川を想起させる。
鮎への敬意があり、すべての要素に意味がある。
かつ食感や、風味の違いが巧みに計算されて盛り込まれ、新しき天体を創造している。
銀杏粥で始まり、菊菜の青々しい香りとほろ苦みを生かす、粉砕栗とカシューナッツソース。
巨峰と次郎柿、車エビと湯葉、醤油ジュレのミルフィーユ。
鮑と百合根に肝とXO醤ソース。
マコモ筍カダイフ揚げ、ナツメヤシヴィネガー。
かぼすと太白であえたスミイカにコートジボワールの胡椒とフルールドセル、松茸醤油焼き。
青椒肉絲ならぬ、同寸に切りそろえた平貝と万願寺唐辛子を山椒油で合わせた「青椒貝絲」。
黒餅米と新蓮根の春巻き、生姜塩添え
鯛の中に鯛を仕込み、切り方を変えた、野菜と醤油ヌーベ添えのお造り
飛騨牛シンタマロースト土佐酢ソース、菊花、ブロッコリの若芽とツル菜そえ。
こしあん入りクレームブリュレ! シャインマスカットと無花果レモンジュレそえ。
寡黙でシャイな野澤さんは、恐らく日本料理を作っている意識はないのではないか。
ここにあるのはまさしく、野澤料理であり、世界に発信できる料理である。