レモンのリキュールとしては、ほかにもオランダの「レモン・ジュネバー」や、インド洋上仏領レユニオン島の「ル・ヴァルカン・コンバヴァ」、中国の「檸檬酒ニンモンチュウ」などを試したことがあるが、リモンチェロの爽やかさにはかなわない。
日本にもレモンリキュールはある。
誠鏡を作る広島中尾酒蔵が、国産レモン発祥の地(明治31年)、大崎下島の大長地区のレモンを独自の製法で作った果実酒「大長檸檬酒」で、甘みの切れがよく、爽やかな酒である。
レモンのリキュールは、香りの高さと甘みとのバランスが重要なようだ。
これはカクテルでもしかり。
レモンのカクテルといえば、「ジンフィズ」が有名だが、世には甘すぎるものが多く、お子ちゃまのカクテルというイメージがある。
1950から60年代の第一次カクテルブームを「バイオレットフィズ」とともに、牽引した花形であったが、いまではあまり飲まれていないようである。
現在の貨幣価値でいえば、一個五百円から千円ほどの高価であった生のレモンの代用として、無果汁のレモンジュースを使っていたため、べったりとした甘さを感じてしまう。
だがあらためて果汁ものを飲んでみると、シンプルながらよく出来たカクテルである。
恵比寿の「ODIN」では、小笠原のレモンを使って仕立てる。
口に含んだ途端、生き生きとレモンの香りが広がり、清涼な空気が体中に満ちていく。甘みもあるが、余韻を残さない、すっきりとした後口である。
飲みやすいとはほめ言葉ではないのだよ、甘いことではないのだよと、お子ちゃまに教えてあげたい味でもある。
BGMは、「愛なんてものを信じてはいけないとレモンの木から教わりなさい。木は美しくて花は可愛いけど、身は酸っぱくて食べられたもんじゃない」と諭す、PPMのレモントゥリーで盛り上げよう。
ジンフィズとは、かくもうまかったかと感嘆させられるのだが、小笠原産の収穫時期である九月から十一月までしか提供しない。
店主の菊池さん、ぜひ夏にも飲めるレモンを探してください。