いくら目が出っぱってるからといっても、名前が短絡的ですよ。
あたしゃこう見えても高級魚なんですよ。
煮ても焼いても、揚げても椀種にしてもうまい。
中華に仕上げても、ポワレやアクアパッツァもいけちゃう。
刺身にするってえ人は少ないけど、してみりゃどうだい、これがまた淡白でおつな味ですよ。
控えめで上品で、うっすらとした甘みがすいっと舌に流れてね。
なにかこう深窓の令嬢ってぇ趣があるんだから。
いやあ、自慢のしすぎかな
仲間だって多いよ。
おなじみの沖や薄公のほかに、小さいトゴット、筍の皮模様に似たタケノコ、キツネ、タヌキ、ウケグチ、エゾ、ヨロイと、三十近くいるんだ。
ただそれらが一種だ三種だと百年以上も論議されて特定されないらしいんすよ。
あたしに言わせてみりゃ、人間の余計なお世話。
仲間は仲間でいいじゃないですか。
ただね、名前が気にいらねえ。
春が旬だから春告魚なんて呼ばれて、嬉しくなっちゃう時もあるし、常に海面に向いて、立つようにホバリングしているから「てんこ」ていう粋な名前も頂いてるんですがね。
通り名ってゆうんですか、本名っていうんですか、こいつの色気がないんだなぁ。
魚の名前なんてぇのは、体の特徴や色が元になるのが多いのは分かってますが、「メバル」ていう名は、ちょいと安易すぎやしませんかねぇ。
各地でも、ハツメ(張目)やメバチ(目張)と、目が出ていることに固執したがる。
カサゴ目フサカサゴ科の兄弟たちは、おんなじように目が張り出しているのに、アコウダイとかヤナギノマイとかカサゴとかキンキと呼ばれてるじゃありませんか。
あたしゃもう、情けなくて情けなくて、いつもメヌケと慰めあってるんですよ。
おそらくメバルはこう思っているに違いない。安直な名前を嘆いているのに違いない。
メバルはうまい。
しかも目が張っているだけでなく、値も張る魚である。
なのにどこかありがたくない感じがするのは、間の抜けた名前のせいである。
ただメバルよ、人間だって考える。
漢字にすると「目張」だが、春が旬とされるので「目春」ともあてる。
するとどうだい、ぐっと食欲が湧いてくるじゃありませんか。
季節に感謝して、おいしく食べようと字を当てるなんざ、日本人じゃありませんか。