マッキー牧元の「美味しく食べる技術」第1回

食べ歩き , 寄稿記事 ,

第1回  『美味しく食べるって何?』

 

牧元 「とんかつ、ハンバーグ、寿司、中華……それぞれの料理を美味しく食べるにはどんな心構えで臨めばいいのか、どんな手順で食べるといいのか。そう言った各論に入る前に、まずは私が食事に目覚めた時のお話から始めたいと思います。

それは小学校5年生の時のこと。宿題に日記が出たんです。毎日どんな風に過ごしているのか書くようにってことなんでしょうね。ある日先生からの返事がひと際大きく書かれていたんです。「食べること以外のことも書きましょう!」って。読み返してみると、ハンバーグだったとか唐揚げだったなんて、家で食べたご飯のことやたまに出掛けての外食のことばかりなんですよ(笑)」

生徒 「よく覚えていましたね。もうン10年も前のことなのに!」

牧元 「いやぁ、その日記がふとした時に出てきて。そんな小さな頃から食べることに熱中していたのかとね(笑)。そしてね、もうひとつ思い出したんです。

中学校の時のお弁当のことなんですが、ボク、サンドイッチが好きだったんですよ。特にサケ缶にキュウリと玉ねぎをマヨネーズで味付けしてパンに挟むというのが大のお気に入り。いつもいつも食べていて、ある日気がついたんです。作りたての方が美味しいんですよ。そこで、学校にサケ缶、マヨネーズ、刻んだキュウリと玉ねぎ、それとパンをそれぞれ持ち込んで、お昼になるとそれでサンドイッチを作って食べていたんです。そしたら「オマエは学校に何をしに来てるんだ!」と(笑)」

生徒 「食いしん坊ぶりは昔からだったんですね。まさに三つ子の魂百まで!」

牧元 「ははは。その頃から執着があったみたいですね。いつ食べるか、どう食べるか、

そんな食へのこだわりが結実したのは大学生になって。大好きなとんかつ屋でのことでした。

それまでボクは何の疑問もなく、ソースを全部のカツにかけて食べていました。しかしある日、とんかつはコロモンサクッとしたとこが魅力なのに、全部かけると最後の方は衣の魅力がなくなってしまう。しなびた衣も美味しいけど、最後までサクッと行き地帯と思い、2切れずつかけることにした。次に一切れぅつかける方法に移行した。そうしているうちに、かふと、ソースなしで食べたらどんな味がするんだろうと気になって。そこでソースなしで食べてみたんです。そしたらなんということしょう!」

生徒 「ど、どうだったんですか⁉︎」

牧元 「今まで美味しいと思っていたそのとんかつ屋のカツが、美味しくなかったんですよ(笑)。これまでソースでごまかされていたんだなあと痛感しました。逆にソースと衣の香ばしさがあれば、力のない豚でも美味しく食べ流ことのできるとんかつは素晴らしい料理だと思ったんですけどね。よくよく考えてみれば、とんかつって豚料理なんです。ならば豚の香りや食感、揚がり具合、ソースとの相性・バランス…そういう観点で食べなければ豚料理としてのとんかつを堪能したことにはならないんじゃないかと、そう思ったんです。じゃあどうすれば豚の味が感じられるのか、その味がわかるのか。そこでそのまま食べる、塩だけをかけて食べてみるを繰り返して、とにかくその店のとんかつを知ることを心がけるようにしたんです。すると、豚の味わい・香り、揚げ油の風味、とんかつのいろんな表情が見えてきたんです。『全く、今まで何をしてたんだ!』思わず、自分を叱責ですよ。

すると今度は、ソースはどう使えばいい? からしの使い方は? 塩とソースの両者の味を楽しむには? キャベツはいつ、どう食べればいい? 美味しいと思って食べていたとんかつですが、いくつも新たな疑問が浮かんでくるわけです。

とんかつ好きで人より食べてはいましたけど学生時代だけでは時間が足りず、社会人になっても同僚と昼休みにいつものとんかつ屋に足を運んでは、それらを研究し続けてきたんです。そしてわかったのが……

生徒 「わかったのは⁉︎」

1 ケチャップはとんかつには甘すぎる。

2 ゴマの香りは豚の香りの邪魔をするので、ゴマはご飯にかけて食べる。

3 まずはそのまま。そして塩。ソースは最後と味変を楽しむ。

4 ソースは必ず一切れずつかける。最初にかけると冷めやすいし、ベチャッと水っぽ

くなってしまう。

5 脂が多い部分にはレモンをかけたり、からしをたっぷり付けるなど酸味を加える。

6 キャベツも最初は巣のまま。次に塩。ソースやドレッシングをかける場合は、少しづつかける。一気にかけない。

7 美味しいとんかつは肉に力があるので、塩さえも不要。豚本来の香り・コクが十二分にあるので、ソースをかけずともご飯が進む。

8 そして何より、切って出されたとんかつは一番長い部分(多くは左から3番目くら

いのところ)が、ロース肉の中心部で脂と肉のバランスが良く、一番美味しい箇所ので、まずはそこを揚げ立ての一番美味しい状  態で食べる。

以上です。

生徒 「おおおおお!」

牧元 「パン粉はざっくり大き目よりも細か目。揚げ油はサラダ油ではなくコクのあるラードということも含め、すべて私の理想ではありますが。でも、社会人時代にその研究結果を某食雑誌で紹介したところ、それまでとんかつ屋で塩を置く店は少なかったのに、増えたんです! 堂々と置かれるようになったし、塩で食べる人も増えましたねぇ」

生徒 「すごいです、牧元先生!」

牧元 「いやいや…とはいえ、やはり食べ方は自由。好きに食べればいいと思います。ただ、無意識に理由なく美味しいと食べるより、疑問を解決するような食べ方をした結果、本当の自分好みの味・食べ方で出会えた時の感動は何ものにも変えられません。

つまり美味しい食事は、自分探しの旅でもあるのです」

牧元 「どうしました? うつむいちゃってますが?」

生徒 「…これまで漫然と食べていた自分が恥ずかしいです……」

牧元 「そんなことはありません。今日のご飯から疑問…いえ、好奇心を持って食べて

みてください。いつもの食風景が大きく変わるはずですから」

牧元 「おっと、そろそろお昼の時間です。今回の講義はこれまでとします」