奥入瀬渓流ホテル ソノール

マグロをフレンチでという至難。

食べ歩き ,

想像してみろよ、寿司よりうまいマグロのフレンチができたとしたら、それこそミシュランの三つ星にふさわしい料理だろ」
グランメゾン東京でキムタクのセリフである。
結局マグロは諦めるのだが、ことに日本でマグロを、フランス料理で出すのは難しい。
日本人なら誰しも、慣れ親しんだ寿司や刺身と比較してしまう。
「これなら寿司や刺身を食べたほうがいいな」と、思わせてはいけないからである。
また加熱せずに出しても。「醤油とわさびで食べた方がいいな」と、思わせてもいけない。
せめて「寿司や刺身の方がおいしいけど、このフレンス料理もありだな」と思わせなくてはいけない。
フランス料理として完成させるなら、エレガントさが必要であるし、ワインが飲みたくなる味でならなければならないし、生のままというわけにはいかない。
それなのに「ソノール」の岡シェフは、冬、夏、秋と三回に分けて、三種類のマグロ料理を出してきた。
元々青森といえば、お客さんがイメージするのは、大間のマグロである。
それをなんとかフレンチで昇華させたいと、試行錯誤してきたのだろう。
 
にいただいたマグロ料理は、藁炙りであった。
藁で炙ったマグロを切り、自家製まぐろの魚醤を塗って、鮪出汁であえた
米のサラダにネギとエシャロットのヴァンジョーヌマリネを合わせている。
マグロの鉄分による酸味、炙った香り、コメのかすかな甘み、ネギとエシャロットのかほのかな辛味、ヴァンジョーヌの酸味、出汁の旨味が見事に共鳴して、優雅な気分になる。
合わせたオレンジワインを飲めば、その複雑味の中にマグロの滋味が溶けていった。
 
にいただいたのは、マグロとナスのサラダだった。
大判に切ったマグロとマグロ魚醤、焼きナスのピューレにマグロ節の出汁によるジュレ、レフォールを少しという構成である。
マグロの鉄分と脂の香りを魚醤が膨らまし、ナスの甘味が広がり、その後からマグロ出汁の香りが抜けて、最後にナスとマグロが優美に抱き合う。
なんとも色気がある皿だった。
合わせたのは、アルザアスのピノ・ノワールである。
 
の終わりにいただいたのは、マグロのタルタルであった。
上には、ゆり根とマグロブシ出汁と自家製マグロ魚醤を合わせたジュレが載っている。
タルタルをそっと口に運んだ。
マグロ自体の爽やかな香りが走った後から、出汁と魚醤の太いうまみが広がっていく。
その濃密を、優しい百合根が和らげる。
なんとエレガントなのだろう。
絶妙なバランスで構成されているがゆえの、エレガンスである。
どちらかというと男っぽいマグロが、美魔女的妖艶さを醸している。
そこへジュラの赤ワインを流し込む。
途端に魚醤の香りが膨らみ、口の中へマグロを一本突っ込まれたようなコーフンが巻き起こる。
赤ワインの中の出汁感がマグロブシの甘みとも共鳴して、豊になる。
今度春に伺う時はどんなマグロ料理に出会えるのか。
楽しみである。