奥入瀬渓流ホテル「ソノール」

マグロとフランス料理。

食べ歩き ,

鮪をフランス料理に仕立てながら、和を感じさせない。
エレガントをまとわせて、ワインを恋しくさせる。
この難関を岡シェフは、幾度もトライして、我々の心をとらえてきた。
青森にあるフレンチだから、マグロを出したい。
こう思いながら、何度も挫折したシェフもいよう。
いや岡シェフも、挫折を繰り返したかもしれない。
だが、そんな苦労は微塵も見せず、マグロの一皿は、目の前で優美な輝きを見せる。
スナップエンドウのジュレをまとわせた、マグロを食べる。
淡い淡いうまみと塩気に抱かれたマグロが、舌の上で、ふんわりとつぶれる。
喉に消え、口に残った、ほのかな鉄分の香りに、ジュラのピノノワールを出会わせる。
すると互いの渋みが、丸く深い旨みとなって膨らんでいく。
官能的な逢瀬の余韻に酔って、次はチップスの上に乗せて食べる。
晴天の霹靂を、シヤモのジュで伸ばしたチップスである。
バリリけいかいな音を立ててチップスは崩れて、しなやかなマグロを際立たせた。
「塩を強くしてしまうと和食になってしまうので」。
食後にこの皿の淡い味付けを聞くと、岡シェフはそう答えた。
まぐろ節とまぐろ魚醤をかすかに使いながら、和食を感じさせず、フレンチで塩を抑える。
その勇気こそが、エレガントを産むのである。