フランス料理の歴史に燦然と名を輝かすオーギュスト・エスコフェは、それまでの料理のルセットや厨房のシステム、料理の飾り付け、コースの流れなどの、効率化と簡素化を図った人である。
例えばペシャメルソースは、小麦粉とバターでルーを作り、牛乳で薄く伸ばし、スパイスで調味するという、現代と同じ調理法を提案した。
しかし今までは、小麦粉とバターでルーを作ったところにフォンを入れ、濃厚なクリーム入れて煮詰めた後、さらにそこはバターを入れてナツメグで仕上がるという方法だったという。
それぞれのソースや料理の要素を必要最小限に絞り、簡素化していく。
それは今までがややもすると、ソースが濃厚すぎて、同じ味の料理が並ぶことが多かったが、より食材の味を生かし、軽やかにし、より健康的になった、画期的な料理だったのだろう。
もしかするとそれは、当時の人たちにとって、その後に現れたヌーベルキュイジーヌ以上の衝撃だったのかもしれない。
だがこのエスコフェの改革には、ホテル黄金時代という背景が欠かせない。
鉄道、車、船舶などの交通網の発達によって、大都市にホテルが建設され、富裕層や貴族などの社交場がホテルへと移行してゆく。
そんな時代に一レストランの有名シェフだったエスコフェが、セザール・リッツに引き抜かれる。
ロンドンサヴォイホテル、カールトン、そしてオテルリッツと渡り歩く中で、仕事の体系化がなされていった。
ホテルのレストランは、街場のレストランの3倍以上のお客さんとスタッフを抱えている。
今までのやり方では効率が悪すぎる。
ここでエスコフェの才能が開花したのである。
先日、セルリアンタワー東急ホテルの総料理長でもあり、日本エスコフェ協会会長でもある福田シェフの手による「エスコフェの料理を味わい会」が開かれた。
クラシックである。
クラシックであるが、その濃厚さを維持しつつも、ソースには軽やかさもあり、エレガントに満ち、ワインとの優美なひと時を演出し、これだけの量を作ってもキュイソンが精緻で一ミリの狂いもなく、食材を輝かせていた。
福田シェフの技能と感性の高さ、さらにフランス料理に対する誠実な敬意に感動した夜であった。
次回も計画する予定だが、料理好きなら、どんなことがあっても参加することをお勧めする。