肉は、その肉は、歯を受け入れると、優しく抱きしめた。
もはや牛肉を噛んでいるというより、柔らかな果実に包まれているような感覚である。
歯の感覚が鋭敏になって、肉の細かい繊維一本一本を感じ取り、涌き出でる肉汁を受けとめる。
ほのかに甘く、上品な肉のエキスは、舌の上をせせらぎ、養分を伝えながら喉へと落ちていく。
焼け焦げる寸前まで火を入れた香ばしいパイは、胸を踊らせ、穏やかな旨味が濃縮したシャンピニオンのデュクセルは、肉の滋味をそっと持ち上げ、フォアグラは、官能的な香りを漂わせて、肉と溶け合う。
ジュ・ド・ヴォーから作ったソースは、牛肉に潜む穏やかな旨味を想起させ、周りに飾られたトリュフのソースは、夜の怪しさを演出する。
合わせて食べれば、その混沌が陶酔を呼び、現実から次第に浮遊していく。
これぞフランス料理のデカダンスであり、妖美である。
Fillet de boeuf Wellington
牛フィレ肉のウェリントン
セルリアンホテル、福田シェフ渾身の料理
「エスコフェを味わう会、第三弾」の全容は後ほど