ヒラメの白い肢体は、

食べ歩き ,

ヒラメの白い肢体は、かすかに抵抗しながら悶えると、和やかな甘みを滲ませながら、崩れていった。
そこへ酢飯の丸い香りと穏やかな米の甘みが抱き合い、戯れる。
ああ、さらに凛とした脂のたくましさが顔を出した。
素のまま食べるよりも、どうして握られると、いとしさがいや増すのだろう。
そこには明らかに職人の技があるのだが、それを微塵も感じさせない色気がある。
「垢抜けて張りのある色っぽさ」と、九鬼周三は「粋」を定義付けたが、ヒラメの握りには、まさにその意思が満ちていて、食べた瞬間恋に落ちる。
たらし込まれて、胸を熱くするのだが、するりと手から逃げていく。
小野二郎さん。90歳が握られる寿司が、粋な色香をくゆらせる。
これは、生きている寿司なのである。