ハモが吠えた。
「うまいっ」と、思わず叫んだ。
ハモ。鮎。うなぎ。
これらは、西洋料理でもよく使われるようにはなったが、我々日本人は、これらの魚の優れた料理を熟知しているだけに、感動を呼ぶものに出会うことは少ない。
田代シェフは以前、「高津川の鮎のコンフィ」という料理を編み出して、その概念を覆した。
そして今度はハモである。
選び抜いた鱧の皮を焼き、身側はさっと炙って、ハモの骨と川俣シャモのフォンを合わせた中に沈め、オーストリアさんのトリュフをかける。
熱いフォンに包まれて、ハモにほんのり火が通ってゆく。
一口食べて、圧倒された。
ハモのどう猛な生体が、トリュフ香と抱き合って、舌にのしかかる。
命の猛々しさが、色艶を帯びて、心を掻き立て、コーフンさせる。
「牡丹鱧のお椀」を飲んだ時の、ふわりとした幸福感ではなく、こちらをねじ伏せてくるような、命のダイナミズムを伴った味である。
まさしくフランス料理である。
フランス料理の旬を生かし方である。
「オーストリアのトリュフをかじった瞬間、パッとハモのことが浮かんだんです。それから試行錯誤して、この料理にたどり着いきました。長い料理人生で、初めてハモを使いました。面白かった。だから料理はやめらない」。
67歳になられた田代和久シェフは、そう言って、他意のない、嬉しそうな顔で笑うのだった。
「ラ・ブランシュ」にて。