1972年、高校3年生だった青年は、彼女との初デートに銀座の店を選んだ。
銀座五丁目にあった「キャンドル」である。
三島由紀夫や川端康成、越路吹雪や渥美清など、文士や芸能人行きつけの高級店だったが、赤白のギンガムチェックのテーブルクロスがかかった店内は、高校生でも物怖じすることない、温かみのある雰囲気だった。
名物はチキンバスケットである。
当時高校生でチキンバスケットを食べたことのある人は少なかっただろう。
今で言えばフライドチキンである。
決して高級な料理ではない。
しかし元々初代が、進駐軍のクラブハウスから学んだというチキンバスケットは、当時はモダンな料理だった。
そして文句なしにうまい。
本来は卵液と小麦粉による唐揚げだったのが、パン粉を使ったのがさらに馴染み良かった。
カリリ。
きめ細かい衣が突き破れると、柔らかい鳥肉に歯が包まれる。
そして優しい鳥の旨みが溢れ出す。
合間に食べるフライドポテトもたまらない。
当時は確かトーストしたパンもついていた。
「おいしいっ」。
一口フライドチキンをかじった彼女が笑った顔は、今も忘れない。
やがて「キャンドル」は店を畳み、二代目がしばらく年月を経てから電通通りの地下に復活した。
大至急チキンバスケットを食べに行ったことを思い出す。
やがてその店もやがて閉店してしまった。
もう一生食べることはかなわない。
そう思っていた矢先、麻布十番にて三代目が復活させたのである。
いい。
二代目より洗練されている気がする。
軽やかさの中にうま味が凝縮されていて、こりゃあ何個でも食べられるなあ
チキンバスケットだけでない、エビマカロニグラタンも、最後にエシレバターをまぶしたフライドポテトも、デミグラス味のチキンライスに薄焼き卵をかぶせてケチャップをかけたオムライスも、どこか品がありながら、猛烈に食欲を刺激させる力がある。
こりゃ通っちゃうかな。
「TARO Azabujyuban」にて