日本酒しかり、フランスのワインしかり、その国の料理を食べないことには、その国の酒はわかり得ない。
昨夜、この至極当たり前の真実に目が覚まされた。
ワイルドガーリック、エカラなど聞いたことがない食材の名前が並ぶ。
さらには、チヒルトマ、ヒンカリ、ヌルグニロール、キンズマリシコ、ロビオ、トケマリソース、ブフロバニ、ボズバシ、コズナキという、これまた謎の料理名が並んでいた。
ジョージアワインとジョージア料理の会である。
ブドウ栽培者/レストラン経営者でもあるジョン H ウルデマン氏と「ノーマ」のソムリエでもあったマッツ・クレッペ氏が来日し、かつジョンのレストランの料理人も来て、現地で食べる料理と寸分違わぬ料理を再現し、ジョーシアワインを合わせるという、希少な機会だった。
主催者は、長らくジョージアワインを輸入する、Nonnna and Sidhi の岡崎代表である。
初めて食べた本格ジョージア料理は、様々なスパイスやハーブ、ニンニクなどが入っているが、どこまでも優しい。
なにより食材に対する深い愛着が感じられた。
それこそがジョージアワインとつながる精神なのである。
最後にいきなり振られて、スピーチをさせていただいた。
その要約を載せる。
「今から10年前の2014年、来日されたワイン生産者たちを取材させていただきました。その中にはお亡くなりになった、アワワインのソリコ氏もいらっしゃいました。
しかし取材したのはワインことではありません。「ジョージア式宴会」の興味があり、そのことを教えていただいたのです。
食べ物のことではなかったですが、宴会の目的とやり方に、人と自然を敬うジョージア人が大切にする文化に、心が打たれた思い出があります。
その時来ジョージアワインに、心を寄せるようになりました。
しかし今日、真のジョージア料理を食べて、なぜこの国のワインがこういう性格なのが、合点がいきました。
昔アワワインをいただいた時、自然のままの呼吸が伝わる味わいで、優しくもあり、豪胆な怖さも持ち得ながら、それが自然だよと教えてくれるワインだと思ったことがあります。
それは今日の優しい料理をいただいて、さらに確信につながりました。
10年前、今日も来日されているからジョンからこんな話を聞かされたことを覚えています。
彼がアメリカからジョージアに来て、たくさんの農家の方が自前で造っているワインを飲ませてもらった時のことだといいます。
ワインを作っている普通の農民に、こんなおいしいワインを作るなんて、才能があるね言うと、大体同じ言葉が返ってきたそうです。
『いや自分は真ん中にいるだけさ。土が作って神が与えたものを自分が少し手を加えるだけでこうなる。自分に才能があるわけじゃない。自分は生かされ、間にいる存在。あくまで媒体、伝達者で、後世に伝えていくだけさ』。
その言葉を聞いた時、僕は思いました。
ジョージアワインというと「醸し発酵」や無農薬、手作り、土中壺内発酵熟成、珍しく古い多くのブドウ品種など、特殊なことが話題になるけど、最もこのワインの味わいを生み出しているのは、きわめて人間的な、自然と祖先への愛と敬意に満ちた民族が作っているという点ではないだろうかと。
今夜料理とワインをいただいて、そのことがさらに膨らみ、強く、僕の心に宿りました」。
日本橋キッチンスタジオKRDにて。