銀座「ラフィナージュ」

ジビーフの点滴。

食べ歩き ,

Consommé de Gibeef
そのコンソメは、点滴のように体を満たしていった。
普通の牛のコンソメとは違い、うまさの暴力がない。
優しさが、そよ風となって吹いていく。
ふわりと草の香りが漂って、おだやかに鼻腔を包み込む。
鹿のコンソメにも近いが、切なさがよぎる・
「トゥルン」
溶け込んだコラーゲンが、静かにささやく。
まろやかな酸味が潜んでいて、それがこのスープの滋味を際立てている
そして別れを告げることが嫌なのだろう。
余韻が長く、長く、口の中でたなびいている。
僕は目を閉じて、草原に悠然と佇む牛を育てた方に、牛肉となって手当てをした方に、そしてこのコンソメを作った方に、感謝の言葉を浮かべた。
二日目も同じコンソメであった。
今回の方が、色濃く感じたのは錯覚だったろうか。
一さじ飲む。
昨日より酸味が膨らみ、色気を感じる。
ポルト酒を加えたのだという。
それは、これから始まる食事の気分を高揚させる一滴となっていた。
銀座「ラフィナージュ」にて。
ジビーフのコンソメ