人形町「小春軒」

コ ロ ッ ケ ラ イ ス 六百円

食べ歩き ,

いまや芋コロッケは、デパート食品売場の花形である。次々と揚げられる幾種ものコロッケを買い求める人で、行列まで出来るほどだ。
同じように、肉屋、惣菜屋、弁当屋でも、芋コロッケの人気ぶりは健在である。 ところが一旦、この洋食の基本料理を洋食屋で食べようと思うと、意外にもメニューに載せている店が少ない。
惣菜感が強すぎて、レストラン料理としては消えていったのかもしれないが、揚げ物は時間が命。テイクアウトもいいが、揚げたてをほおばり、すかさずご飯を食べる幸せは、洋食屋ならではである。

そんな数少ない、洋食屋での芋コロッケとの出会いを実現させてくれる店の一つが、「小春軒」である。
「小春軒」は、一見どの町にもあるような、普通の洋食屋の店構えだが、「西洋御料理」、とのれんに染め抜かれた文字が、創業明治四十五年の重みを感じさせる店だ。
創業以来、変わらぬ味を保ってきたというコロッケライスは、二個ついて六百円。注文が入ってからタネを小判型にまとめ、衣をつけて、ラードと白絞油でカラリと揚げる。
特徴は挽き肉がたっぷり入っていることで、茹でてつぶした男爵芋に、同量の生の合挽き肉とタマネギを混ぜてタネを作るのだそうだ。
まずはソースをかけずに一口。香ばしく揚がった、きめの細かい衣にカリリと歯を立てると、ホックリとした熱々の中身が現れる。じゃがいもの甘みと挽き肉のうまみが程よく入り交じった味わいは、誰もが口をハフハフさせながら
「おいひいっ」と、顔をほころばす温かみがある。毎日食べても飽きない力強さがある。

このおいしさを持続させるためには、ソースを一度にかけないほうがよい。少しずつかけていくと、衣の歯触りがいつまでも楽しめる。

あるいは、タネの味わいがしっかりしているので、塩をかけてビールで一杯というのもいいし、醤油をかけてもうまいのだ。
ご飯もおいしく、千切りキャベツ、ポテトサラダも丁寧に作られていて、それぞれの役どころをきっちり守る定食は、食べていて清々しい。
店内は、古くからの常連客が多く、おかみさんと世間話を交わしながら、
「今日は鮭バターに、(コロッケ)一個づけでネ」。と頼み、うまそうに食べている姿は、つくづくうらやましくなる。