シリーズ食べる人。
素敵な女性が隣に座られた。
年の頃は、45くらいだろうか。
細身で身長も168ほどありそうである。
上下黒のスーツに黒いハイヒール、ナチュラルメイクで黒髪を後ろで束ねられている。
細面で鼻が高く、きりりとした目をした美人である。
いやそれよりも、いかにも私は仕事ができますというオーラを醸し出している。
今は一時ということは、打ち合わせが長引いたのか、仕事からようやく解放されての食事だろう。
運ばれてきたのはかつ丼だった。
丼は手には取らず、膳に置いたまままずカツをひとかじりし、すかさず箸でご飯を食べられた。
カツ丼が好きなのね。
最初の一口で、十分に伝わるよ。
それよりも細身の美人にカツ丼という組み合わせが、なんとも素敵である。
華奢な体に重厚な料理、知性に大衆料理というギャップがコーフンさせる、
コーフンはさせるが、食べる姿に1ミリも違和感がない点が、また素晴らしい。
お新香、味噌汁、キャベツという脇役陣の食べ方もムラなく、配分にも淀みがない。
次に添えられた木製しゃもじでご飯を食べ、さらにはご飯とカツの切れ端を乗せ、一緒に食べた。
寿司方式である。
黙々と表情を変えずに食べているが、彼女の心内では、味変の美味しさにガッツポーズをとっているに違いない。
しばらく食べ進むと、ソースをとった。
そしてカツの一切れにかけ、少しソースを拭うと口にした。
その時彼女の口元が、少し緩んだ。
トンカツ大好きなのね。
きっと今日はトンカツにするか、カツ丼にするか、悩みに悩んだのね。
しかしソースをかけたのは、その時だけで、初心貫徹カツ丼の味わいに埋没しながら、食べ終えた。
最後は丼にお茶を入れて、縁にこびりついた米粒を落としで飲むと、一枚残しておいた大根の浅漬けで丼内をきれいにぬぐい、その大根を食べて箸を置いた。
ブラボー パチパチパチパチ。
どれほと僕は.立って拍手を送りたかったか。
カツ丼のお作法、とくと拝見させていただきました。
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