水槽の中で、イワナこちらをみて睨んでいる。
お前たちが食べるのかいと、問いかける。
こんな大きなイワナは見たことがない。
やがてイワナは水槽から出されて、お造りにされた。
手前にはお造りが三枚、奥には、行者ニンニク醤油漬けと藤花の酢漬けであえた山独活が置かれている。
コリッシコシコ。
コリッシコシコ。
強靭な肉体に歯が包まれていく。
最初はあまり味を感じない
だが30回噛んでようやく、味が立ち上がってくる。
甘みのようなうまみのような味わいが、生えてくる。
それは、山のうまみしぶとい脂の味なのか。
深山の神秘が密やかに解き放たれてのか。
次に、行者ニンニク醤油漬けや酢漬けを、それぞれ包んで食べてみた。
行者ニンニク醤油漬の旨味によって、イワナは野生の品を際立たせ、酢漬けの酸味と山独活のであって、岩魚の清洌が心を刺す。
目を閉じれば、緑あふれる川の底で、泰然自若と獲物を待つ岩魚の姿があった。
軽井沢「M A N O」にて