アジである。

アジである。
口の中に入れると、酢飯と舞いながら、溶けるように消えていく。
歯はアジの肢体に包まれながらも、繊維などなきかのように滑らかで、品のいい脂を広げる。
最後は、酢飯数粒とアジのかけらが、別れを惜しむかのように、同時に消えてゆく。
官能を撫でられて言葉を失い、僕は黙って中空を見つめる。
それらは一瞬のことであるが、永遠の時を運んでくるのだ。
これこそが”エレガント”というものなのだろう。
多くのアジの握りを食べてきたが、まだこれ以上のアジは食べたことがない。