やはり。

食べ歩き ,

やはり。
肉を食らうとはどういうことか? ジビーフはそれを問うてくる肉だった。完全放牧野生牛ジビーフを、キュイソンの達人、高良シェフが挑む。
「カーボンを纏ったロース肉のロースト」は、一口噛んだ瞬間に「お前にこの味がわかるかい」と肉が聞いてきたようで、ぞくっとした。
脂の甘さや肉の鉄分だけではない、味の交錯がある。
草の香りや清涼な風に、牛の息や体臭が溶け込んだ、どっしりとした大地の味がする。
そこには、噛んでも噛んでも味を表現できない神秘があって、人間の無力さを感じさせる。
いや、同じ地球上の生物として互いに生き抜こうとする、呼びかけの味であったのかもしれない。
今まで食べた、どの肉のローストとも違った。
茶や竹炭、カンパーニュ、小麦などで作られたカーボンが、牛を草原に戻したのかもしれない。
高良シェフの肉を見極める慧眼と、類まれなる肉焼きのエスプリと、そしてなにより肉への深い敬意が、この味を生み出した。
ゆっくりゆっくり咀嚼して目を瞑る。
肉がほぐれ、小さくなって喉に落ちていく。
その瞬間僕らは、襟裳岬に近い駒谷牧場の草原に立っていた。