博多には数多くの水炊き屋がある。
だが僕は、もうここでしか水炊きは食わん。
そう決めたけん。
水炊き屋ではなく割烹だから、常連にしか作らんけどね。
鶏ガラと野菜を長時間炊いたスープに、もも肉の団子と鳥手羽を入れて炊く。
「ふうっ」。
背骨が溶けた。
実際溶けたわけではない。
だが、滋味がとろんと舌を包み、体の隅々へと行き渡っていく時、体中から力が抜けて、自身がスープの中に溶け込んでいく感覚が広がっていいくのである。
「さあ、たんとお食べ」。
鍋がそう言っとる。
美人若女将がよそってくれた鶏肉を食べれば、どんな水炊きより、包容力がある。
我々の体をすっぽりと包み込んで、慈愛たっぷりな手で心を撫でる。
「ああ、うまいなあ」と、何度呟いたことか。
鶏肉を食べた後は、白菜や春菊、椎茸などを入れる。
そして雑炊になると一旦下げて、新たな鳥スープで作る。
ご主人曰く
「野菜の味が染み出したスープではうまくはなかけん」
鍋奉行協会会長として、増水を作らせてもらった。
今回は4段活用。
スープをかけて。
少し煮込んだご飯と柚子。
卵で閉じて、鴨頭ネギ散らして。
こてこてのおじや、海苔状まで煮詰め、ご飯オンご飯。
「美味しい鍋には、幸せの色がある」。
博多「畑瀬」にて