また無茶振りしてしまった。
前回、「イガメンチ」と「いちご汁」という郷土料理を、見事にフランス料理にアレンジしたことに感激したためである。
岡シェフに素晴らしさを伝えながら、「青森は個性的で、様々な郷土料理がありますから楽しみですねえ、例えばかやきとか、ニシンの切り込みもやってください」と、無責任に無茶ぶった。
真面目な岡シェフは、真っ当に受け取られたらしい。
今回のコースにはなんと、「切り込み」があった。
まあこう書くだけで、フランス料理から遠く離れている。
岡シェフは、ニシンをサバに変え、米麹とシェリーで六日間発酵させたのだという。
しかし見たところ、どこにもサバはいない。
下はヴィネグレットで和えた胡瓜と自家製モッツァレラを刻んだもので、その中にいた。
上は、ドラツピーで低温乾燥させた、トマトのコンカッセである。
一口食べて、惚れた。
発酵した鯖の酸味、胡瓜の爽やかな香り、チーズのコク、トマトの濃い旨み、ヴィネグレットの酸味が調和し、美しく響き合う。
どれ一つ突出していないが、どれ一つ欠けても表せない美がある。
そしてよくよく噛み締めると、遠くに米麹がいる。
その存在も不可欠で、日本的な練れたうまみが、他の調味と出会って生まれるスリルがある
和装の熟女から、ゲランが香ってきた時のスリルに似て、スリルはエレガントを生み出すのだった。
奥入瀬渓流ホテル「ソノール」にて。